レアアースと人造石油 ― 我々に覚悟はあるのか
我々に覚悟はあるのか?
前提として、この記事には特定の思想や個人を批判する意図はない。
現政権を支持する側に向けた疑問であることを念頭に置いている。
既視感
レアアースの脱中国化。レアアースの輸出管理を武器として使う中国に対して世界が抱える最重要課題の一つ。
2010年時点は約90%のレアアースを中国に依存していた日本は2025年には約60%程度に依存度を低下させた。
更には南鳥島沖に眠るレアアース泥の試掘開始。大量生産、商業化に向けた一歩となることを日本中が期待している。
高市首相に代わって以降、対中関係が悪化する中で非常に良いニュースに聞こえる。
確かに、南鳥島沖から採掘したレアアースを大量生産・商業化できれば、採掘という面では中国への依存をかなり弱めることができる。
太平洋戦争勃発前、日本首脳部はドイツに習い人造石油を生産しようと画策していた。
人造石油製造事業法、第一次人造石油事業振興計画、第二次人造石油振興計画を策定して、最終的に400万キロリットルの人造石油を生産しようとしていた。
(参考までに、日米開戦の1941年の日本全体の石油消費量は約530万キロリットルであった。)
しかし実際には第一次計画の4年目で2万キロリットル(目標49万キロリットル)しか生産できなかった。
戦前の話はここまでにして、人造石油は何故、今世界のどこでも生産されていないのか?
シンプルに事業として採算がとれない、黒字化できないからである。
これと同じように、レアアース国産化も日本の安全保障という単一の側面にのみ目を向けて考えれば、利益や損失を度外視して開発を進めることはできるが....
利益を度外視すれば
しかし、実現するには課題が多すぎる。
レアアースは採掘された後そのまま製品(パーツとして使える状態)になるのではなく、精錬という、錬金というプロセスが発生する。
この精錬というプロセスにおいては未だに中国が世界一かつその技術についてはほぼ独占状態であり、日本でレアアースを採掘したとて
短中期的かつ商業規模的な視点から考えると中国の技術を使って精錬する必要がある。
国内でやればいいじゃんと思うかもしれないが、我々にその覚悟はあるのか?
レアアースはPLC全体で石油の比べ物にならないほどの環境汚染を排出する。精錬もその1プロセスで、精錬するには大量の化学薬品で化学反応を起こして
レアアースを抽出する。そしてそれには大量の水も必要となる。
つまり日本国内でレアアースを完結させようとすると多大な環境汚染が発生する。すなわち、被害を受けるのは生態系全体であり、その頂点にいる人間である。
我々に、その覚悟はあるのか?
また、南鳥島沖にレアアース泥があることは2013年の調査によって判明していたのになぜ今まで試掘に着手してなかったのか?
それは商業化できないから、つまり採算がとれないからだ。
6000メートルという深海に眠る資源を1単位掘り出すのに2単位のエネルギーを使って掘り出す。わかりやすくかみ砕くと、100円を200円で買うようなもの。
そうなれば当然、レアアースを使った製品価格はあがる。そしてレアアースは現代のかなり多くの製品に使われている。
するとエンドユーザーである我々が払う値段も高くなる。
強硬路線を貫く政権を支持するというのはそういう事なんだ。
そこまで理解したうえで、支持するのは結構。
むしろしっかり考えたうえで覚悟が決まっていて尊敬する。
そういった事実に目を向けずヘッドラインの印象で良し悪しを決定しがちだが、その考え方は我々を良い未来へ導いてくれるか?
日本国民に大事なこと~長期的な視点から~
日本に大事なこと
参議院の半数入れ替え選において投票先を決定するにあたり日本が進むべき方向性を加味して現状の課題とその対策や解決策を含めて記述した。
TwitterやTikTokのような歴史的な、現実的なコンテキストが欠落した過激な主張よりもこちらを参考にして、自分がどんな国にしたいか、どんな国なら安心して子育てができるか、どんな国なら幸せな人生を歩めるかを再考して欲しい。特に経済政策においては将来的に我々の子供やその孫世代に影響するため安易に減税という政策を選ばずに慎重になってほしい。
概要
通貨価値の下落を緩やかにして時間を稼いでる間に半導体産業や周辺の産業に政府支援で投資を行い、
次世代半導体のチョークポイントとなることで安全保障を担保し、同盟国との外交を優位に進め仮想敵国である中国に対して同盟国と足並みを揃えて対処していくこと。
通過価値の下落、財政悪化を緩やかにするためには減税はやめた方が良い。一度減税をしてしまうと、税率を元に戻すことが難しくなる。なぜなら増税をマニフェストに入れると選挙に勝てなくなるし、政権を取った後に増税を行っても支持率の下落に直結する要因となることでどの政権も増税に踏み込めなくなる。
減税->徴税能力弱体化->財政悪化->円の国際的信用下落->日本国債が長期物を中心に売られる->日本国債が長期物を中心に金利が高騰する->将来的な金利払いが増える->財政が悪化するの無限ループになる可能性が高い。
経済政策
消費が活発化してインフレになった訳ではなく、地政学的リスクの高まりが影響してインフレになっているので、給料も上がりづらくハンドリングがかなり難しい局面。しかし、インフレになっているのは間違いない訳で、このタイミングで減税を行うことは市場により多くのキャッシュが流入することになる。
すると市場ではマネーサプライが増えたことで相対的に円の価値が下落し、物の値段が高くなる。つまりインフレ圧力が高まる。大企業はプールしているキャッシュが多いため、社員の賃上げを実施して物価の高騰を比較的早い段階で反映させることができるが、中小企業は大企業のような資金的余裕がない場合が多いため物価の高騰を社員の給料に反映させるのが遅くなる。つまり、減税を行うことで一番苦しむ可能性が高いのは中小企業に勤めている中間層以下の世帯であることが予測できる。
そうであれば、減税という財源を圧迫し国際的な印象が悪い対策を打つよりも、現在の税率や物価の高騰で苦しむ世帯を調査した上でその世帯にのみ給付金を支給するのが最も効果的であると推察できる。
子育て
教育が進み平均所得が向上した国家において、子育てに充分なお金を給付しただけでは出生率が上がるのかは疑問。なぜなら、以前いくらべて自分が生まれた土地や家族とのつながりが薄れていく現代ではより個人の意見が尊重される様になり、より遠くへ移動する自由が普及したことで、子供を持つメリットよりも1人で行動できるメリットの方が大きくなっている。これは、子供を持った場合に得られる幸福がイメージし難い一方で、1人で、もしくはパートナーと2人でいる選択肢を選んだ場合は自由に使える時間が担保されていることで世界中を旅行したり、高級なものを食べたり、さまざまなコミュニティに参加したり、仕事で成功を収めて富や名声を稼ぐという具体的な幸福を想像するのが容易だからである。恐らくこの傾向は所得が高くなればなるほど見受けられる。しかし、子供が生まれなければ国家は崩壊するので国家としては低所得世帯への支援を強めるべきであると言える。一方で、高所得世帯がいなければ日本の技術力などは衰退する可能性も考えられるので両者の損益分岐点について合意形成を取れる形で政策を実現する必要がある。
つまり、日本政府が打つべき施策としては下記の3点であると考える。
- 子育てに充分な資金を提供すること
- 子供を持つことの幸福について、国民を教育すること
- 低所得世帯の方が高所得世帯よりも出生率が多いという客観的データが得られている場合は、高所得世帯から次世代教育費という使用用途を明確にした徴税を行い、それを低所得世帯の子供達への教育の財源とすること。
IT・科学技術
次世代半導体産業への政府主導による支援の継続及び強化が必要。加えて不足するエンジニア人材を今から教育しても間に合わないので、5年後、10年後の未来を見据えてその時代に勝てる日本を作ることを目的としてAIを活用し自動化を行う。とりわけ、サイバーセキュリティ人材の不足は日本やアメリカでかなり問題になっているが中国は大量の人材を有しているので、これに立ち向かうべく日本とアメリカを、及びデータ通信のチョークポイントであるシンガポールを主導として欧州を巻き込みAI活用によるサイバーセキュリティ自動化でサイバーセキュリティ人材不足をオートメーションで補う。
過去にはアメリカが欧州に比べて熟練工が不足していた課題をオートメーションで解決した歴史があるのでこの時代でも実現可能であると信じている。
外交・安全保障
トランプ政権時代の米国が離脱した、それまで米国が主導していた自由貿易体制TPPを日本が引き継ぎ、自由貿易のルール作りを日本主導で継続して行う。ルール作りを主導して行うことで各種産業が損を被る確率を減らすことができるので、日本の国益に資することができる。
レアメタルが豊富なグローバルサウスの国々、主に東南アジアやアフリカ諸国との外交活動を活発に行いプレゼンスを高め、レアメタルの供給不足リスクを減らす枠組みを形成することが重要。一方でこの取り組みは即座に効果を上げることは期待できないので、短期的には中国との宥和政策を取ることもやむ終えない。なぜなら、世界のレアメタル供給はものによっては90%以上、低くても60%程度を中国に依存しており反中国的な姿勢をとるとその国に対してのレアメタル供給が停止することが過去に何度も起きているし、アメリカのトランプも結局はそれを理由に関税交渉で譲歩を繰り返している。
そして、レアメタルは現代の生活の上流部分に根ざしており、身の回りの製品でレアメタルが使われているものがかなり多いだけでなく、日本の主要産業はレアメタルに依存している。
まとめ
国家とは常に重層的な側面を持ち併せている。例を上げると、イスラエルとアメリカは蜜月関係の側面もあるが、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争では相反する行動を取ったこともある。国際社会に属する国家は常に複数の層から構成されており、ある層では対立するが、ある層では協力関係を築くといったことが当たり前のように起こる。一つの視点からのみで物事を認識してしまうと問題を正確に把握できずに進むべき方向を誤って選択してしまう。それを防ぐためには、今の視点から他の視点にピボットする必要がある。それをするために大切なのが、自分ではない誰かとの対話、コミュニケーションとなる。他人の視点を学ぶことで、ようやく本質が見えてくることもある。批判的であることと批判することは大きな違いがある。批判的思考は自らが見落としていた点を気づかせてくれる。一方で批判では何も変えられない。
拡大する中国政府による認知戦
目次
拡大する中国政府による認知戦
今年に入って、中国による認知戦が活発化している。
先の 5 月には国際法では日本固有の領土として認められている尖閣諸島周辺で領海侵犯及び領空侵犯を行い、日本国籍の小型機を同領域内から追い出すという行為を行った。専門家の間ではこの事件はエスカレーションと捉えられており、中国による領有権主張の段階が 1 段階上がったとされている。
7 月 9,10 日には東シナ海の公海上空で情報収集活動を行なっていた航空自衛隊の哨戒機に水平距離で 30m に接近飛行を行い、続く日本からの非難声明に対して外務相が「完全に真っ当な行為」として主張するなどして東シナ海において明らかに国際的認知を武力的恫喝により変更させようとしている。
そこで、2025 年に入ってからの大きなニュースとなった領土問題についてリストアップする。
中国政府による認知戦の拡大により、最終的に日本は領土を失うことになる。
現状で国際法的には日本の領土と認められていたとしても、中国の領域侵犯に対して日本が非難を強く行わないと国際的には中国の実効支配が及ぶ領土として認識されてしまい国際的な裁判で勝てなくなる可能性が徐々に増えている。
日本としてかなり厳しい状況なのが、前に書いたブログのレアメタル問題である。 今日では、世界中の社会は中国のレアメタルに依存しており日本もその例外ではない。日本政府としては中国の領域侵犯に対して強いアクションを行いたくても、実際にそのように行動してしまうと中国レアメタルの禁輸リストに日本の主要企業が指定されてしまう可能性が高い。もしそうなれば、主要産業の利益悪化により日本経済はかなりの打撃を受けることが予想される。
三戦とは
2003 年中国共産党の中央委員会及び中央軍事委員会において採択され、中央人民解放軍政治工作条例に「輿論戦、心理戦、法律戦を実施し、瓦解工作、反心理・反策反工作、軍事司法および法律服務工作を展開する。」と記載された。
瓦解工作とは組織崩壊活動、反心理工作とは「心理的攻撃への対抗措置」、反策反工作とは「敵の内部に入り込み密かに行う寝返り工作活動への対抗措置」、法律服務工作とは法律に関する業務を意味する。
世論戦、心理戦、法律戦はそれぞれ密接に関係しており、厳密な区分けは存在しないと考えられている。
世論戦
自軍の敢闘精神の鼓舞、敵戦闘意欲の減退を目的とする内外與論の醸成をいう。新聞、書籍、ラジオ、テレビ、インターネット、電子メールなどのメディアと情報資源が総合的に運用される。
心理戦
敵の抵抗意志の破砕を目的とする。
常用戦法には「宣伝(テレビ、インターネット、印刷物散布等により敵の思考、態度等を変化させる。)」、「威嚇(軍事演習、有利な戦略態勢、先進兵器の誇示により敵の認識、意志に影響を及ぼす。)」、「欺ぎ騙へん(真実を偽装して敵の決定と行動を誤らせる。)」、「離間(指導者と国民、指揮官と部下の間に猜さい疑心等を生ぜしめ、自軍が乗じる隙すきを作為する。)」、「心理防護(士気低下の予防、督励、カウンセリング、治療により、自軍に対する敵の心理戦活動を抑制・排除する。)」がある。
法律戦
自軍の武力行使、作戦行動の合法性を確保し、敵の違法性を暴き、第三国の干渉を阻止することで自軍を主動、敵軍を受動とする立場に置くことを目的とする。
日本と中国の尖閣諸島およびシナ海をめぐるいざこざ(2025 年)
7 月 9 日~7 月 10 日
東シナ海上の公海上空において監視警戒を行なっていた航空自衛隊の情報収集機に対して中国の戦闘爆撃機が水平距離で 30m まで近づいて飛行を行った。
https://www.mod.go.jp/j/press/news/2025/07/10a.html
6 月 7 日~6 月 8 日
太平洋の公海上空において警戒監視を行なっていた海上自衛隊の哨戒機に対して、中国軍空母の山東から飛び立った戦闘機が追従した。
https://www.mod.go.jp/j/press/news/2025/06/11c.html
5 月 25 日
中国海軍空母の遼寧、フリゲート艦などの合計 5 隻が沖縄県尖閣諸島の久場島の北、およそ 200 キロの東シナ海を航行した。領空侵犯はなかったが、スクランブルは行った。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250525/k10014816461000.html
5 月 14 日
沖縄県の尖閣諸島沖で中国海警局の船 4 隻が相次いで日本領海に侵入し航行した。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250514/k10014805461000.html
5 月 7 日
沖縄県尖閣諸島沖で、中国海警局の船舶 2 隻が 24 時間 40 分領海内を航行。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250508/k10014800001000.html
5 月 3 日
中国海警局の船が沖縄県尖閣諸島沖合の 22 キロを領海侵犯、この時は中国海警局ヘリコプターによる領空侵犯が初めて行われた。
中国海警局は「日本の民間機が領空に不法侵入」と主張。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250503/k10014796331000.html
4 月 5 日
尖閣諸島沖で中国海警局の「海警」2 隻が日本領海に侵入。
いずれも機関砲を搭載。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025040500429&g=soc#goog_rewarded
3 月 24 日
尖閣諸島周辺で中国海警局の船 2 隻が 92 時間余り日本領海を侵犯。
2012 年尖閣国有化以降で最長。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA240LV0U5A320C2000000/
3 月 14 日
沖縄の尖閣諸島沖で中国海警局の船 4 隻が領海侵犯。
いずれも機関砲を搭載。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250314/k10014749791000.html
2 月 12 日
沖縄の尖閣諸島沖で中国海警局の船 4 隻が領海侵犯。
いずれも機関砲を搭載。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250212/k10014719791000.html
1 月 8 日
沖縄の尖閣諸島沖で中国海警局の船 4 隻が領海侵犯。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250108/k10014687681000.html
最後に
中国政府は武力での脅威を日増しに強めているだけでなく、イデオロギーや文化面でも各地域に浸透を深めている。明確な根拠を掴めていないので、断言は避けるが、近頃は SNS でなどで[POV You choose China over Japan and Korea]といったようなタイトルで欧米のインフルエンサーらがバズる動画を出している。そういった事象の増加も実は中国政府が意図しているものだったりする可能性もあり得る。これについては後日 OSINT してみて推論できるほどの根拠が集めることができれば詳細に解説を行う予定。
中東レポート
中東レポート 直近2週間程
目次
トランプ大統領が 2025 年 5 月に訪問した中東の国々
サウジアラビア リヤドを訪れ、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子やサルマン国王と会談。サウジ・米間で「戦略的経済パートナーシップ」に関する大規模な防衛・投資契約を締結し、GCC 首脳会議にも出席。また、シリアのアル=シャラー大統領とも会談 1
カタール
ドーハを訪問し、エミールと面会。カタール航空によるボーイング機大量注文や、国防・基地施設関連の商談・契約を推進。2アラブ首長国連邦
アブダビでグランドモスクやアブラハム家族館を訪問、ムハンマド・ビン・ザーイド大統領と会談。AI 関連投資や G42 社との連携など、先端分野での協力協定を発表。 3
この 2025/05 の中東訪問で直接的に軍事に関係する契約を結んでいないのはアラブ首長国連邦のみであることに留意したい。
つまり、米国とアラブ諸国は友好関係を築いてくことを示唆している。これによりイランが更に孤立する可能性が高まる。
日本の石油輸入先 2023 年 4
このうち、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタールはペルシャ湾をに面しておりこれらの国々からの原油はホルムズ海峡経由で輸送される。
ホルムズ海峡がイランによって閉鎖された場合でも、サウジアラビアの陸路経由で紅海の港へ輸送しそこからバブアルマンデブ海峡を通過してアデン湾とアラビア海経由で輸送する代替ルートも存在するが、運用能力に劣る。
トラックで輸送などの手段ではなく、油田から各港へパイプラインが通っている。その為、イランによるホルムズ海峡閉鎖が発生した場合は中国、韓国、日本のような極東地域の経済に大打撃を与えることは間違いない。
捌ける原油量
ホルムズ海峡:1800~2000 万バレル/日
紅海・アラビア海:650 万バレル/日
パイプライン
サウジアラビア: Petroline(East-West Pipeline) アブカイク to 紅海のヤンブー港
アラブ首長国連邦: Habshan-Fujairah Pipeline アブダビのハブシャン油田 to フジャイラ港
2025/06/22 アップデート
5 月に軍事・経済面での条約を結んだことで米国がイランに軍事介入した場合でも中東において戦火が拡大しないような調整はすでに行われていると考えられる。
もはや、それが裏の目的であったとも考えられる。
サウジアラビア外務省は 6 月 21 日午前の米国によるイラン核関連施設へのバンカーバスターを投入した爆撃後にこのように x に投稿している。
サウジアラビア王国は、米国がイランの核施設を標的としたことに伴う、姉妹国イラン・イスラム共和国の動向を強い懸念を持って注視している5
6/22 日の午前に調べた限りでは、カタール、アラブ首長国連邦はこの米国の爆撃についてのコメントを発表していない。
サウジ外務省のコメントからもわかるように、同じアラブ地域かつイスラム教徒のイランが爆撃されたにも関わらず、「強い懸念」を発表するに留まり米国への非難は行っていない。
9 割以上がイスラム教徒の国家であるが、脱石油依存で米国との関係を強化したいという実利的な側面が政府の本音なので、パフォーマンスとしての表現にとどまっている。
他方、爆撃されたイランとしてはイラン議会が世界の石油の 2 割、日本の石油の 7 割が依存するホルムズ海峡封鎖を発表した。6
この封鎖実行には国家安全保障最高評議会の決定が必要であることに留意したい。
しかし、これが現実になった場合世界中で石油価格の高騰が発生し関連する産業も打撃を受け商品の値段は上がりインフレーションが起こる。
現在米国では FRB が、鈍化してはいるものの未だに粘り強い経済指標と戦っている。トランプとしては米国内でのインフレを招いたとして世論に受け取られ支持率が低迷する恐れも大きい。
2025/6/26 アップデート
米軍のバンカーバスターによる各施設の爆撃によって、米トランプ大統領は、ナタン、イスファン、フォルドゥの三箇所の核施設は致命的なダメージを受け今後数年から数十年に渡りイランの核開発を遅れさせることに成功したという旨を Twitter で公表した。7これに対して米情報機関の DIA は全く異なる報告書を提出しており、施設の中核部分は破壊できておらずイランの核開発計画を数ヶ月遅らせるに留まったことに言及している。
一方で CIA のジョン・ラトクリフ長官は深刻な損傷をうけ復旧には数年を要するという見解を示した。8 更に、イラン外務省の報道官は米国の 22 日の攻撃で各施設に大きな被害が出たことを明らかにした。9
イランとしては公表したくない事であるはずなのに、なぜわざわざ公表したのか?イラン側の視点に立って考えてみたい。ここからは私の考察に過ぎないので過信しないでください。 ただ、国家間の対立や外交問題を考える際に tips にはなります。
トランプ大統領と秘密裏に交わした取引である可能性 結論としては、「今回の軍事作戦を自らの成功としてアピールしたいトランプ大統領からの圧力が働き、イスラエル軍を抑止する見返りとしてトランプ大統領がイラン側に発表させた」可能性がある。
以降はこの考察に至った背景情報となる。
何章目の何ページ、何行かまでは明示できないが、Bob Woodward の著書「WAR」に以下のような記載があった。「Unlike his precedessor Joe Biden, Conversation between Trump and Putin was not fully subscripted. He expeled his transcriber from the conversation.」これは、前任のジョー・バイデンがプーチンとの対談の際には内容は完全に翻訳されていた一方で、トランプとプーチンの会談の際には翻訳者はその会談から締め出されたというようなコンテキストだった。こういった会談や電話会談のやり取りが秘密裏に行われ、トランプ大統領とイラン政権側といわゆるディールを結んでいた可能性はあり得る。 これとは別に、歴史的背景を説明する。イランの現状としては軍事的な成功が短期的には 99.9%見込ない。1979 年のイスラム革命10以来「イスラエルに死を」「アメリカに死を」というスローガンのもと自国内の意識を対イスラエル・対米として醸成してきた。つまり、対立感情を世論としてあらゆる政策の合意形成を行ってきたため、今更引くに引けなくなっている。この局面で国民の目に弱気に写ってしまうと信頼が失墜し政権が転覆しかねない。つまり、国内の信頼を裏切らないようにメンツを保てる言動を行い、対外的にはイスラエルとアメリカからこれ以上ボコボコにされないように外交を行う必要があるのだ。
その証拠として、イラン政権は国内向けには「イランの歴史的勝利」11という宣伝を行いつつ(事実上は大敗北なのだが)、カタールにある米軍基地への報復攻撃12は事前に「いつ、どこで、どのように」報復を行うかを外交ルートを通じてアメリカ側に伝えていた。(つまりアメリカが損害を受けないように根回しをした)今回の米軍によるイラン各施設の爆撃は歴史的観点から観ても衝撃的かつ与えた打撃も大きいにも関わらずである。軍事的観点からすると全く無意味どころかマイナスな行動だが、それでもイランは国内世論に対してメンツを保つために徹底的にアメリカに配慮を行った上で米軍基地に対して報復という体で軍事行動を起こした。核開発計画は大きく後退したと国際社会に認識させたい可能性
事実としては核開発施設の中核部分に何ら損傷は与えられておらず、秘密裏に開発を続けようとの思惑があるということもあり得る。
今回の爆撃による各施設へのダメージについては米国の情報機関内でも認識が割れており、CIA はイラン核開発を少なくとも数年は後退させたと発表した一方で、DIA は各施設の中核部分にはダメージを与えるに至っておらず数ヶ月遅らせたにすぎないとの見方も出ている。
イランとしては核開発能力を有していないと国際社会からみなされることで監視の目が多少緩くなる可能性があるので事実と異なる発表をしているということが考えられる。
2025/6/29 アップデート
国際情勢が急速に変化する中、また新たに重大な不確定要素が出現した。
米軍が爆撃した 3 ヶ所のイラン核施設のうち、イスファンにおいてはバンカーバスターは使用されていないという情報である。13トランプ大統領はこの情報が市場に出る少し前に、以下のように発言している。14
リポーター: 仮にイランがあなたが懸念するレベルまでウラン濃縮を行えると情報機関が結論づけた場合は、再びイランを爆撃することを検討しますか?
トランプ大統領: 疑問の余地はない、絶対的にだ。
この事から推察するに、イランへの米軍による再爆撃が行われるリスクは再び高まっていると考えることができる。
一方で、留意したいのが任務の目的はイランが進める核開発プログラムの特定の側面を排除することであったことである。つまり、すでに高水準に濃縮されたウランを排除することが任務目的ではなかった。
最後に
本稿で取り扱った事象を考慮すると、市場は停戦やホルムズ海峡閉鎖リスク、米軍による軍事介入がもたらす中東地域での戦火拡大などのリスクが低減したことで再びハイテク株などに資金が戻ってきてはいるものの、まだまだ不確定要素が多く注視していく必要がある。
脚注
- サウジ・米国投資フォーラム開催、対米投資 6,000 億ドル規模に↩
-
トランプ大統領 カタールと総額 2000 億ドル超の取り引きで合意
↩ - トランプ氏、UAEと 2000 億ドル超の契約 AI協力深化で合意↩
- 日本の原油輸入相手国上位 10 カ国↩
- サウジ、米のイラン攻撃に「強い懸念」 英は交渉復帰呼びかけ↩
- イラン議会がホルムズ海峡封鎖承認と報道、最高評議会の決定必要↩
- イラン核計画「中核部分は破壊されず」、米情報機関が分析=関係筋↩
- イラン核施設、「深刻な損傷」受けた米軍の空爆について CIA 長官↩
- イラン、核施設の「深刻な損傷」認める米攻撃で=アルジャジーラ↩
- [親米派が政権を握っていたが、イスラム法による統治を目指す反体制派の勢力によって親米派政権が打倒された。この革命以降、イランは対イスラエル・対米に傾倒していった。]↩
- イスラエルとイラン、双方が「歴史的な勝利」宣言し合う…大規模な衝突なく停戦維持か↩
- イラン、カタールの米空軍基地に報復攻撃 米国に事前に通知し死傷者なし↩
- イラン核施設爆撃、1カ所にバンカーバスター使用せず 標的の深さが理由と米軍制服組トップ↩
- Trump: US could bomb Iran again if it continues high-level uranium enrichment↩
日本の石油輸入と中東情勢
イランとイスラエル・アメリカの情勢が日本に及ぼす影響
現状の石油輸入
日本は石油輸入の9割を中東に依存している。 2023年度の統計1では以下の国々
1.サウジアラビア
2.アラブ首長国連邦(UAE)
3.クウェート
4.カタール
5.米国
6.エクアドル
7.オマーン
8.オーストラリア
9.ベトナム
10.インドネシア
このうち、サウジ、アラブ、クウェート、カタール、オマーンが中東に分類される。
日本が中東から石油を輸入する航路をオイルロードと呼ぶ。
日本の石油輸入はここに8割依存している。
ちなみに、日本は2019年までイランからも石油輸入をしていた。
GPS Jammingが観測された
ペルシャ湾の出入り口にはホルムズ海峡という要衝があり、道幅が非常に狭い。日本に石油を運ぶタンカーはこのホルムズ海峡を通る必要がある。
この重要な海峡付近において、6月13日にイスラエルによってイランが攻撃されてからホルムズ海峡付近でGPSジャミングが観測2されている。 無償版のため7日分しかデータを閲覧できないので13日以前のものが確認できず前後を比較し難いが、ペルシャ湾付近の赤いエリアが増加していることを観測できる。
ちなみにGPSジャミングで事故を起こしたタンカーが中国に向かうリベリア国籍の船と、もう一方はアンティグア・バーブーダ国籍の船舶なのが興味深い。さすがに単なる偶然だと思うが、中国とアンティグア・バーブーダは近年、関係を急速に緊密化させている。3
- GPSジャミング: GPSの電波を妨害する電波を流す事で船舶の安全航行が行えなくなる。グーグルマップをイメージするとわかりやすい。GPSジャミングを受けることで現在の正確な位置情報が拾えなくなる。広い海では致命的。
6/14
6/15
6/16
6/17
6/18
6/19
6/20
GPSは船舶の安全航行に関わってくるので海上保険料が向上したり原油価格の高騰に繋がる。
米国の軍事介入示唆とイランのリアクション
現時点で、トランプ大統領がイランに無条件降伏を求めており42週間以内に軍事介入を行うかどうか決定すると発表している。5
この発表に先立ち、G7の2日目をNSC(米国家安全保障局)とのミーティングに参加するため欠席しており、6先述の発言が交渉材料としての単なる脅しという意味に留まらず水面下でアメリカが軍事介入した場合のシミュレーションを行っていると考えられる。(この部分は個人的推察)
これに対してイランの最高指導者ハメネイ師はアメリカが軍事介入した場合ホルムズ海峡の海上封鎖を行うことを示唆7しており、実際に行われた場合は石油輸入に代替ルートを使う必要がある。その際に候補としてあるのが、サウジアラビアの左側にある紅海である。
しかし、石油パイプラインの地図から見てわかるように、ほとんどのパイプラインはペルシャ湾に集中しているため供給量が格段に減ることは間違いない。また、紅海はイスラム教シーア派過激組織による海賊行為が頻発するエリアであるため、船舶ハイジャックや船舶の損傷のリスクがある。
これらの要因によって海上保険料の高騰や原油価格の高騰に繋がり、日本における石油価格は高騰する。
石油パイプライン
赤色のラインは稼働中のパイプラインを表す
そもそも、何故イスラエルとイランは対立している?
スンニ派とシーア派
ハマスはスンニ派(イスラエルの中にあるパレスチナ人の自治政府)
ヒズボラはシーア派(レバノンを拠点とするイスラム軍事組織)
この2つの武装組織に対して資金・軍事支援をしている国家がイラン。イランとハマスは宗派が異なるが、反イスラエルという点において一致。
スンニ派は中東において多数を占め、シーア派は少数派。
なぜ、反イスラエルなのか?
イランとイスラエルは1979年のイスラム革命を境に関係が悪化する。
イランはそれまで、親米派の王政が敷かれておりイスラエルともアメリカとも友好関係にあった。
しかし、この内政的な逆転現象が起こりイランは国内をイスラーム法で統治するようになる。イスラーム法とはその名の通り近代的な三権分立のようなシステムによる統治ではなく、宗教の思想を色濃く反映した制度である。もっと砕けた表現をすると、善悪の判断は全て宗教的価値観が基準になる。
なぜイランが経済的な実利を得ることができる欧米との協調路線ではなく、激しく対立する路線をとっているのかは正直理解できていない。この部分はおそらくイスラム世界に対する深い理解=国民国家的なフィルタを外さなければ理解ができない領域だと思っている。
中東の中でも孤立するイラン
実はイランは近年になって中東の中でも孤立が目立っている。
サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、オマーンなどは現代の石油産業を中核とした経済において、欧米にとって重要な石油産出国パートナーとなっている。一方でそれらの中東諸国も欧米との強調路線を採るほうが宗教的な価値観を基に対立するよりも実利が多きいので、経済的な相互依存体制が出来上がっている。
この構造的な理由によって、それらの中東諸国は表面上ではイスラエルに対して非難声明などを出すが実際の行動は伴っていないことが近年多くなっている。
反面、イランは軍事利用目的でのウラン濃縮疑惑が2000年代に入ってから上がっており、それを理由に米国から経済制裁を受けている。
2019年を境に日本がイランから石油輸入を控えているのもこの米国の経済制裁対象に加わらないためである。
まとめると、イランとしては既にアメリカから経済制裁を受けていることで欧米と友好関係を結ぶインセンティブが低いうえに、自国内の世論とウラン濃縮から得る現時点での実利が上回るため反米・反イスラエルの姿勢を明確にしている。
レアメタル帝国
~中国が第 3 次エネルギー革命を制した理由~
目次
イントロダクション
なぜ、政治家は中国に対して反発しないのだろうか?なぜ、政治家は中国人留学生に資金援助を行うのだろうか?なぜ、日本の仮想敵国である中国と親しくしようとする政治家がいるのだろうか? なぜ、政府は日本の排他的経済水域に眠る豊富な資源を採掘し活用しないのだろうか?
こういった疑問は、レアメタルという主要なテーマをたった一つ理解することで解消される。そしてこの記事は、多忙な現代人に向けたレアメタルの要約記事として世界の流れを理解することに寄与することを目的としている。
資源を制する国が世界の覇権国家となる
人類が地球に誕生してから何千年もの間、人間の動力は人間や自然の力を利用し安定性に欠けていた。それ故に、人が一生をかけて移動できる距離も今よりずっと短く、各地域は山や川、海に隔離されて統一されず、情報の伝達には途方もない時間がかかり、戦争も小規模で死傷者の数も現代とは比べ物にならないほど少なかった。
こういった状況を一変させる出来事がヨーロッパの僻地である小さな島国で起こった。イギリスで起こった第一次産業革命である。この出来事を基にして、移動時間は短縮され、情報の伝達速度は加速し、多くの物や人を目的地へ効率よく運べるようになり、機械の力を利用して物資を大量にかつ安価な値段で供給できるようになった。すると、自国の市場だけでは生産した物が捌ききれなくなり、海外に自国産の商品を売り捌くようになった。この事がさらに各国の経済的な結びつきを強く、複雑にしてグローバル化が急速に加速していった。そう、グローバル化とは世界が一つに繋がる一連の動きのことを表現している。結果として複雑に絡み合った各国の利害関係や思惑、それに扇動された世論は対立を激化させていった。そうして起こった人類史上始まって以来の悲劇が、2 度の世界大戦である。
話を元に戻すと、これら全てを可能にしたのが第一次産業革命で、それはイギリスで起こった。その後、第一次世界大戦で疲弊したヨーロッパの経済を立て直したのはアメリカの経済だった。世界恐慌は起こったものの、現在に至るまで世界はアメリカと石油産出国に依存している。
地底に眠る黒い石
18 世紀初頭から 19 世紀にかけて使われたエネルギーは石炭を燃料とした蒸気機関であった。これが、人類史上初となるエネルギー転換である。それまで自然の流れに身を任せていた人間の移動は、自らの意志で、自らのタイミングで、目的の場所により早く移動できるようになった。参考までに、帆船時代にイギリスからインドへの航路はモンスーンを利用して 1 年間に 1 往復しかできい上に片道 3 ヶ月を要していたが、蒸気機関を船に搭載したことで定期便で片道 3 週間だけで到達可能になった。1イギリスは世界でいち早く産業化を推し進め、自国の経済を潤すために植民地を広げていった。時期こそ多少の差異があるが、これに倣うようにフランスやオーストリア、ドイツといったヨーロッパの国々も植民地を拡大していった。列強主義の始まりである。この時代のイギリスは、パクスブリタニカと呼ばれ、イギリスが世界の警察として世界の覇権を握っていた時代だった。このイギリスの繁栄を支えたのは、石炭を燃料とした蒸気機関、その動力を基礎とするイギリス海軍だった。同時代のイギリスは世界中に石炭供給基地網を築いていたことで、実際に世界の覇権を握ることができた。
石油
19 世紀後半からは主要な燃料として石油が利用されるようになった。これが、2 度目のエネルギー転換である。しかし、石油は石炭のように最初からエネルギー源として活用されたのではなかった。石油産業の黎明期では、高価な鯨油に代わる燃料として夜の街を照らしていた。これがエネルギー源として活用されるようになったのは、イギリス海軍の戦艦ドレッドノートに石油が燃料としてが組み込まれてからだった。石炭は人員によってボイラーに運ばれる必要がある一方で、石油はパイプさえつなげば良いので輸送用の人員が不要だった上に、同じ体積で石油は石炭の 2 倍のカロリーがあった。さらに、蒸気機関は外燃機関で、燃料を燃やす部分と動力を受け取る部分が違ったことで動力の小型化が困難だった。石油はピストンがある場所に直接、気化した燃料を送り込み爆発を起こして動力を作り出せるので小型化が比較的容易だった。こういった背景を理由に、動力源の小型化が進み、戦車や戦艦、航空機や大衆でも買える安価な自動車2が発明されて石油への需要が拡大した。
イギリスには石炭とそれを供給する基地網が世界中に存在したが、石油の産出国との関係を築く必要があった。そこで目をつけたのがペルシャ(今のイラン)であった。アメリカは、自国内に豊富な油田を発掘しており当時は世界で 1 番の石油産出国だった。やがて、第一次世界大戦が勃発しヨーロッパの土地は荒れ果て経済は崩壊し、エネルギー源の石油産出国であるアメリカがイギリスに代わり世界の覇権を握った。
レアメタル
今までのエネルギー源の移り変わりについて、ざっくりと確認してきた。では今日は石油からどのエネルギー源に移り変わろうとしているのか?それは、レアメタルである。
レアメタルは、現代人に欠かせない原料になっており、その種類は多岐にわたる。自動車、船、飛行機はもちろん TV やスマートフォン、PC や冷蔵庫、電子レンジなど日常生活に溶け込むありとあらゆる物がレアメタルに依存している。さらに、洋上風力発電や太陽光発電などから生成した電気を使い、グリーンエネルギーと呼ばれる CO2 を排出しないエネルギー源が世界中で推進されている。電気自動車もその流れの一つである。
このグリーンエネルギーの覇者となるのはどこの国なのかについて深掘りしていく。
没落する欧米と台頭する中国
先進国に蔓延る高付加価値主義
これまで歴史的には、先進国は資源の豊富な国々の資源を開発し、そこで得た権益を利用してさらに付加価値の高い製品やサービスを市場に供給してきた。
言い換えると、原料を自国で生産せずに、在庫を減らし、倉庫を減らし、工場を減らして設計などの上流工程に専念することで利益を上げてきた。その結果、高付加価値を創出するサービス業が正義という考えが蔓延して工場で働き自分の手を汚すことを嫌い、何の製品も製造しないコンサルティングのような職業を花形とする風潮になった。
こういった高付加価値主義は、今日、欧米をはじめとした先進国の苦しみの種となって現れている。
工場移転による技術流出
先に述べたように、高付加価値主義が蔓延った先進国ではビジネス上のリスク分散とコスト削減のために工場を自社及び自国内で持たずに、より安い人件費でより安い製品を大量に生産できるように工場の国外移転が進んだ。
この工場国外移転に一役買ったのが、中国だったのである。
一般企業だけでなく、防衛産業を担うような企業や、軍事転用が可能な技術を有する企業が次々に価格の安さを重視して中国に工場を移転した。
例を挙げると、日本はモーターの小型化と高出力化に必須であるネオジム磁石を製造する日立金属、アメリカは精密誘導爆弾の製造技術が中国に流出してしまった。
中国に依存するサプライチェーン
拡大する自由市場によって世界で大量生産、大量消費、低価格化が巻き起こり、レアメタルもその例外ではなかった。
欧米先進国では 20 世紀初頭まではレアメタルの採掘が活発に行われていたが、後に記載するレアメタル採掘に伴う環境汚染と人体への被害によって近隣住民がデモを起こしたり環境保護団体から批判を行ったり、世論の鉱業界に向けての風当たりは強くなっていった。 結果として鉱山開発会社は先進国においてレアメタル採掘を行えなくなり、欧米の鉱業は廃れていった。代わりに環境汚染、人体への影響と経済的利益及び世界の大国としての威厳を交換することをいとわない国々へ採掘事業を任せることになった。
その中でも野心的かつ戦略的に鉱業を発達させ、今では中国はレアメタル採掘と精錬において世界で 1 番になった。
先ほど述べたような製品はレアメタルを必要とするものの、わずかな量で十分なので市場としてもかなり小さい。つまり、恣意的なアクターが 1 人いるだけで、市場のレアメタル価格を自由自在に操ることができるようになり、各国はそのレアメタルに依存しているためレアメタルの供給はかなり不安定なものとなってしまった。
このレアメタルサプライチェーンの中国への依存が浮き彫りとなった事象が世界では数多く起きている。
日本を例に挙げならば、2010 年 9 月 7 日に起きた中国漁船衝突事件である。この事件は、日本の領土である尖閣諸島沖を無許可で漁をしていた中国籍漁船が海上保安庁の巡視船の命令を無視した上に巡視船に衝突してきた。当然、中国籍の船長は逮捕された。国際的な視点から見て至極当然の結果であるこの逮捕は、中国共産党のプロパガンダに使われ、中国世論を激怒させた。2 週間後の 9 月 22 日、精密エレクトロニクス製品に使われるレアメタルであるイットリウムの輸入が突然滞った。詳細は3の書籍を参考にしてほしいが、これと似たような事象が世界各地で起こっている。スウェーデンでは洋上風力発電のブレードに必要なレアメタルの輸入を人質にかけ、中国は同国企業の工場移転を強制した。
これが、世界が安価を求め中国レアメタルのサプライチェーンに依存した結果である。そして今や中国は、世界中から盗用した技術を集積しレアメタル精錬の下流工程だけでなく我々のようなエンドユーザが使う最終製品までも中国国内のサプライチェーンで完結できるようになったのである。
クリーンなエネルギーという幻想
ここまで各国が血眼になってレアメタルの供給確保に躍起になっているのであれば、レアメタルは当然、よりクリーンで、よりエコで、より物質量を減らしてくれる原料なのではないかと錯覚してしまう。確かにレアメタルやレアアースを使って、最終的に CO2 を出さない自動車や電気を作り出すことができるのは間違いない。 しかし、ライフサイクル全体で見るとレアアースは石油と比べて遥かに地球を汚染するリスクに満ち溢れている。
レアメタルのライフサイクル
レアメタルのライフサイクルとしては、以下となる。
採掘 -> 鉱物処理 -> 一次金属生産 -> 金属加工 -> 製造と組立 -> リサイクル or 廃棄
このうち、採掘と鉱物処理の段階で多大なる環境汚染が発生していることが知られていないのは、グリーンエネルギーとデジタル転換を主導する各国のリーダー達が見て見ぬふりをしているからである。
実はレアメタルの採掘時には放射性物質が放出され、鉱物処理には大量の水と化学物質が使われる。これが、精錬と言われる作業で、精錬後には大量の汚染された排水が河川や海、湖に放出されてこの水源を汚染するため、付近の地域ではがんの発症率がものすごく高かったり、作物が育たなかったりするのである。さらに、驚くべきことにレアメタルが豊富にある鉱床ですら、1 トンの岩から 4~7 グラム程しかレアメタル取り出すことはできないのだ。加えて、レアメタルといえど永久に使えるわけではなく、当然 EOL(製品の寿命)を迎える。しかし、レアメタルのリサイクル方法に確立した手段はなく、リサイクル率は極めて低い上(よくて数%)に、ものによっては全くリサイクルされずに保管されているものがある。最終的な成果物が CO2 を全く排出しないからといって、最終成果物までの製造工程で環境汚染を広げていたら本末転倒である。当然、関連業界の専門家達がこの事実を知らないはずはない。しかし、一度乗った船を途中で降りることはできないのだ。この新たなエネルギー転換とデジタル化によってもたらされるクリーンで再生可能で永続的な経済成長システムというアイデアは、人類が目指すべき理想だが実のところ綺麗に見えるのはエンドユーザーだけなのである。先進国は利益を享受する代わりに汚染を許容するグローバルサウスの国々に汚れ仕事を押し付け、高い付加価値を生み出す最終製品の製造にだけ注力してきた結果、気づけば中国に世界の覇権を渡してしまったのである。知りたくない現実に目を向けない限りは、改善することすらできない。ハイテク化された社会に生きる我々にとって、今のハイテクを捨てて過去の生活に戻ることはできないだろう。何より、世界の覇権を虎視眈々と狙う国が隣にいては、誰が先にこのグリーンエネルギーとデジタル転換という幻想をもとに作られた世界秩序の上で繰り広げられるゲームを先に降りるかというチキンレースになってしまい、尚更無理な話である。
だからこそ、世界中の国々が一つに集まり現実に目を向け、我々自身を救うためのタスクフォースを創り、真の意味でクリーンなエネルギーと社会を目指すべきだと思う。
番外編
採掘が容易な鉱山はどれだけある?
実は、世界中のどこを探しても採掘が容易で費用対効果の側面から見た時に採掘が可能な鉱山や地下資源はほとんど残されていない。 日本の領海内に眠るとされている石油やレアメタル資源もこの例外ではなく、掘るのに莫大な労力と資源とエネルギーとコストを要するのである。わかりやすく例えると、アメリカの方が免許取得費用が安いからといって、アメリカに免許を取りに行っても日本で取るより総合的に高くついてしまうだろう。免許自体は 1 万円そこらが取得できるが、航空券を買い、ホテルを取り、食事をしたらあっという間に 30 万円は超えてしまう。
対中強硬路線は日本を救うのか
ここまで読み進めてくれた人なら理解できるかもしれない。対中強硬路線は、日本国民の首を絞めるだけなのだ。
もしやるにしても、日本の産業構造を根本的に変えない限りは未来永劫不可能であることに変わりはない。
なぜなら、日本の主要産業は何かを思い出してほしい。自動車、エレクトロニクス、計測器などである。そして、何千という会社がその産業にぶら下がっており、その産業で稼いだお金で家を買ったり、借りたり、スーパーマーケットで買い物をしたり、服を買い、趣味に励み、旅行などをして、生活を豊かにしているのである。
そのように考えると、日本の主要産業の製造活動を維持するために不可欠なレアメタルから始まるサプライチェーンを中国に掌握されている限り、中国と対立するのことは日本にとって好ましくない結果をもたらすだろう。こういった構造上の原理原則の話はせずに、我々の耳にとって聴き心地が良い言葉を囁いてくる政治家や、駅で演説、街中でデモ活動をしている、人物こそが我々が最も警戒すべき対象である。
では、この怒りをどこにぶつけるべきなのか?
ここまで読み進めて、国内にいるはずだった非難の対象が消えたことで、やり場のない怒りを抱えていた人はガッカリするかもしれない。しかし、あまり落胆しないでほしい。原理的に、怒りでは何も解決しない。我々の祖先は怒りに煽られ、何度も過ちを犯してきた。怒るのではなく、考えよう。そして、発言しよう。立場の異なる人々の声に耳を傾けよう。そういった機会や場所がないのであれば、皆んなで創ればいい。こういった地道な活動でしか、社会は変わらない。
カシミール紛争:背景と日本に与える影響についての考察
2025年4月22日、インド側のカシミール地域で観光客26人がテロの犠牲となった。これに対しインド側は今月7日、パキスタンへの報復攻撃を実行。*1
インドとパキスタンは長らく同地域の統治権を争っているが、一体なぜなのか気になったので調べた結果をまとめた。
- 英国領としてのインドパキスタン地域
- 分離する3つの地域
- 後世に残る禍根のはじまり
- 変化した情勢
- トランプ大統領の一方的な停戦合意発表が示唆する事
- インドにとってのカシミールの重要性
- 日本への影響
- 青色と赤色の対立
- 今回参考にしたサイト
英国領としてのインドパキスタン地域
1947年8月、英国はインドに対する宗主権を失った。それまでの体制は、それらの地域内は1つにまとまっておらず、藩王国という単位で小さな王国が660以上も存在して、それらの藩王国が個別にイギリスに対しての服従を誓っていた。各藩王国はヒンズー教かイスラム教を国教としていた。
英国が宗主権を失った事により、これらの藩王国を1つにまとめようとする動きが起こった。有名なガンジー等が率いる国民会議派がこれにあたる。一方で、ムスリム連盟というイスラム教徒の組織は統一インドに対して分離独立を主張して二者間で対立が起こった。
最終的に、ヒンズー教徒の藩王国はインドに帰属し、イスラム教徒の藩王国はパキスタンに帰属した。
分離する3つの地域
そういった動きの中、ハイデラバード、ジュナガル、カシミールの帰属が以下の背景により焦点となった。
ハイデラバードはインド中央南部にあった最大のイスラム藩王国で、ジュナガルは住民の多くがヒンズー教徒だったが、王がイスラム教であったためパキスタンへの帰属を求め、カシミールについては、住民の多くがイスラム教だったが藩王がヒンズー教な為独立を希望した。
パキスタンはこれに応じる構えだったが、インドが反対した。
最終的にインドは、ハイデラバードとジュナガルに対して武力行使を背景にインドへの帰属を迫った。ハイデラバードはそれに応じ、ジュナガルは藩王がパキスタンへ逃亡し両国がインドへの帰属となった。
後世に残る禍根のはじまり
47年10月、パキスタンが武装集団をカシミール地方に送り込み、同地域の治安を悪化させた。カシミールの藩王はインドへ赴き当時の首相にインド軍の救援を要請した。しかし、インド首相は、インド領でない国を守るためにインド軍は派遣できないとして、インド軍を派遣する条件としてカシミール地方のインドへの帰属の明文化を求めた。カシミール藩王は直ちにこれに応じ、インド軍がカシミール地方に派遣された。これに対しパキスタンも正規軍を送り込み、ここに第一次印パ戦争が勃発。
この戦争は、インド優勢で調停を迎えた。
パキスタンは不利な戦況で調停を迎えたため、国際社会に訴えかける事によりこの2国間の紛争を国際紛争として位置付け、米国や英国などの大国の介入による利害調整でパキスタン側に優位になるように働きかけ、これを背景として現在に至るまでこの指針で行動していく事になる。インドとしては、この問題を2国間の問題として扱う事でインド側が一方的な主張を通しやすくなるため、パキスタンの動きを嫌った。
変化した情勢
こういった流れの中、第三次印パ戦争が勃発した。結果はインド側の明確な勝利に終わった。よって、和平合意もインド側の主張が色濃く反映されたものとなった。内容としては、「今後この問題を2国間の問題として扱い、2国間が合意する平和的手段によりこの紛争問題を解決する事」とした。
和平合意によりパキスタンがこの問題を国際紛争へエスカレーションする事が出来なくなり、それまで度々調停に介入していた英国や米国のバックアップも期待できなくなり、インド側の思惑が通しやすい状況になった。
トランプ大統領の一方的な停戦合意発表が示唆する事
この様な紛争背景のなか、先日、第4次印パ戦争へエスカレーションしかねない事態が勃発。(本ブログ冒頭で触れた件)両国の武力衝突に対し、トランプ大統領がインド側の同意を得ないまま停戦を発表した。
歴史的な文脈から、インドがこの動きを嫌うのは明確であり、インド側はこのトランプの行動に猛反発している。インド側としては、この問題を国際問題化したくないという思惑があり、実際、再び国際紛争問題化しかねないというインド側の不安が、政府の発言に現れている。
インドにとってのカシミールの重要性
なぜインドは長年に渡る武力衝突を行ってまでも、この地域に固執するのか。その理由は2つあるとみなされている。ひとつは中国とも国境を接するラダック地方の問題。カシミールを失う事は、中国と外交問題状態にあるラダック地方の自治権を自動的に失う事につながる。
もう一つは、インド国内には一億人を超えるヒンズー教徒が居住しており、イスラム教徒の多いカシミール地方のパキスタンへの帰属が認められてしまえば、インド国内のイスラム教徒による分離独立運動が活発化し広範なる領土を失う可能性が高まる事にある。そうなれば、インド国内の情勢も不安定化し治安を維持できなくなる。
日本への影響
日本はインドと複数国家(日米豪印)からなる安全保障条約、クアッドを結んでいる。だからと言って即座にこの影響が日本に反映されるとは考え難い。しかし、こうした背景を基に、インドが日本に対して同国の主張を支持するよう声明を出す事を求めてくることも考えられる。
インドの要望通り、「印パの紛争問題は2国間の問題である」と国際社会に捉えられる声明を出した場合、中国側を刺激することにもなり得る。中国は自国に有利な問題については国際問題化を避け、自国に不利な問題については国際問題化を好む傾向にあるため、前述した事が実際に起きれば日本やインドに対して反対声明を出す事が予測できる。
このシナリオにおける社会的な影響を電子戦の側面から考察してみると、脅威アクターによってDDoS攻撃等で日本の政府関連システムへの嫌がらせが行われる可能性がある。
この考察の一連の流れで示唆したい事は、中国への批判や世界で起きている政治的分断ではなくて、近代から現代にかけて急速に加速したグローバリゼーションによって、国際社会における国家間の複雑な繋がりは、地理的に遠く離れた国で起こった日本人には馴染みのない宗教紛争、地域紛争ですら実の所は日本にも影響を与える可能性が大いにあるということ。
青色と赤色の対立
この紛争を背景として、改めて顕在化するもう一つの大きな対立がある。それが、西側諸国(欧米諸国)と新興国(中国)の対立。実は、この紛争で使われている兵器は欧米諸国と中国製の兵器である。インドが欧米(フランス、アメリカ、イスラエル等)から輸入した最新鋭の兵器であるのに対して、パキスタン側は中国の最新鋭兵器を用いて対抗している。実際に一部の報道ではパキスタン軍が使用する中国の最新戦闘機にフランス製の戦闘機が撃墜されたと報じられている。中国は来たる2027年までに台湾侵攻を行うと世界的に予測されており、こういったデータを収集して今後の軍事活動に利活用するという思惑も当然あるだろう。中国のアジアにおけるプレゼンスは年々確実に向上しているが、一方でアメリカはどうだろうか。アメリカは対中方針としてインドとパキスタンをふるいにかけた結果、アジアで変化するパワーバランスの抑止力としてインドをパートナーとして選んだ。しかし、先にも触れたようにトランプ大統領の発言をきっかけにインド国内では政府だけでなく世論も対米感情が芽生え始めている。西側諸国としては本件の収束の仕方によってインド太平洋地域における戦略的に重要で最大のパートナーを失うことになり得る。
今回参考にしたサイト
これらのサイトをすごいざっくり要約してまとめたので詳しいことが知りたければ直接拾いに行くのを推奨。








